医療ミスを減らすために医者も読むべき本~『失敗学のすすめ』『BRAIN DRIVEN』

読書ネタ

こんにちはー!

失敗という言葉を聞くと
小動物のようにビクッとなるドクターコンちゃんです!

医療ミスの報道は後を絶ちません。

しかし人間が何かをやる以上、
ヒューマンエラーは絶対にゼロにはなりません。

犯人探しをして、一人に責任を取らせても、
再発予防にはなりません。

ヒューマンエラーは必ず起きるものとして、
その結果が重大にならないように、
組織的に、システムで対処しようというのが、今や常識です。

医療界でも独自にその対策を講じてはいますが、
どのみち人間の行動には一定のパターンがあるので、
他の業界の実態も知れば生かせることがあるのではないかと思い、
以下の本を読んでみました。

今回紹介する本はこちら。

  • 失敗学のすすめ1)
  • Brain Driven2)

失敗学のすすめ1)

感情を伴った失敗談を伝えることが大事

企業や研究室などの組織で、
重大な事故につながる失敗を防ぐにはどうすればよいか
ということについて、
体系的に失敗学という学問を作った東大教授が書いた本です。

印象に残った話として
工学部の学生のエピソードがあります。

フッ酸(フッ化水素酸)を素手で触わると、
外傷を残さずに皮膚に浸透し、骨を直接溶かすらしいです。

当初は薬品手袋を2重にして扱っていたところ、
人から人に伝わるうちに、徐々に注意点が風化し、
新しい学生が素手で触ってしまいました。

この学生は、指切断を免れるために、
指先の爪の間から針を刺し(!)、
カルシウム注射を行うという拷問のような治療を
2か月間も続ける必要があったとのことです。

この失敗談を学生に話すことで、
以後、薬品をぞんざいに扱う学生はいなくなったとのことです。

このように、
他人の失敗を痛みなどの感情をともなったエピソードとして記録し、
組織内に残すということが
失敗を繰り返さないために重要であると述べられていました。

医師の失敗談

確かに、他人のミスについて、
平面的な文書の情報として受け取っても、

「ふーん、大変だね」

くらいにしか受け止められません。

大概スグ忘れます。

しかし、医師同士の個人的な会話の中で、

「昔、手術でこんな失敗があって大変だった。それからは、こうやって予防してる」

というような話を聞くことがあります。

文書で読むよりも、生の体験談というのは、
その時の医師の焦り、
患者さんに説明するときの様子などが伝わってきて、
自分の中の感情とともに追体験できるためか、
忘れることがありません。

もちろん、訴訟になるような重大な結果にはなっていない、
リカバリー可能な小さいミスである話の方が多いです。

そういう情報は、普通、手術の教科書などには載っていません。

予防法は、一般化していない、
その医師の個人的注意点だったりします。

こういう細かい情報をいろんな医師から集めることができれば、
他人の失敗を自分のものとして、
同じ失敗を予防することができます。

知りたいのは上手くいく方法より、失敗の予防法

本当は航空業界のように、
こういう失敗情報を日本中、
いや世界中の医療者が共有するシステムがあれば
同じミスはずっと減ると思われます。

しかし実際は、失敗情報を公開すると、
民事訴訟に使われる可能性があるためか、
特に小さなものはなかなか表に出てきません。

訴訟になれば表に出ますが、
そこで議論されるのは過誤があったか、なかったかということだけです。

でも他の医療者がホントに知りたいのは、
時系列の事実の羅列ではなく、
当事者の心理面、環境要因など、
すべてを含めた原因の調査と、
それに基づく予防システムの構築です。

手術の教科書などには、
執筆者の名誉もあり、
ほとんどの場合
上手くいく方法が載っているだけです。

失敗のエピソードや、
その後の予防法というものが載っていることは稀です。

こういった情報を学会員から集めて
共有しようとする動きのある学会もありますが、
ボクとしては、
科の垣根を越えて、医療者全体で共有するシステムが欲しいです。

BRAIN DRIVEN2)

この本は、失敗に関する本ではありませんが、
『失敗学のすすめ』で述べられていたことを補完し、
脳科学的に理解するのに役立ちます。

五感で経験した「エピソード記憶」と、
その時の「感情の記憶」というのは、
脳の別の領域で記憶されるらしいです。

神経科学の分野では当たり前らしいですが、
Neurons that fire together wire together」という言葉があります。

脳の別の領域が、
同時に活性化すると、
ワイヤリング(結びつき)が起きるというものです。

ようは、強い感情を伴ったある経験をすると、
その後も感情とともにその時のエピソードが思い出されるというものです。

まあ、経験的にそうですよね。

しかも、人間は進化の過程で、
生存を脅かすような危険を避けるため、
マイナスの感情の記憶の方が強く残りやすくなってきたようです。

つまり、マイナスの感情を伴った失敗の記憶は、
記憶に残りやすいという事ですね。

やっぱり、『失敗学のすすめ』で言うように、
他人の失敗を、感情とともに追体験することが大事かと考えます。

その他にも、この本から、
モチベーションを上げるための方法などを
脳科学的な根拠から理解できるため、大変おススメです。

世にたくさん出回るハウツー本や自己啓発本では、
作者の個人的経験から得られた、
表面上のテクニックのみ説明されているものが多いですが、
この本は一線を画すかと。

医師一人の力では限界がある

他にも失敗に関する良い本がありますが、
長くなるので今回はこんなもんで。

ボクは、自分が失敗する前に他の医師から学びたいため、
あえて遠くに手術見学に行って、
その医師がそれまでの経験で身につけた
細かいこだわりを聞くのが好きです。

でも、ボク一人の聞き取りだけでは学習スピードに限界があるので、
先に述べたように、
失敗を予防するための情報共有システムが確立されるといいなと思います。

手探りで試行錯誤して失敗予防法を学ぶというのは、
必要なことではあります。

しかし、以前の記事
『新しい手術法と従来法、どちらを受けるべきか?!~ラーニングカーブの功罪~』
でも書きましたが、
上達までに患者さんが迷惑をこうむるわけですから。

というわけで、安全第一を胸に、
今後も慎重に頑張りたいと思います!

最後まで読んでくださって、
ありがとうございました!!!

参考資料:
1)失敗学のすすめ 畑村 洋太郎 (著)
2)BRAIN DRIVEN 青砥瑞人 (著)

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