新しい手術法と従来法、どちらを受けるべきか?!~ラーニングカーブの功罪~

勝手にメス入れ医療問題

こんにちは!

新しい事が大好きなドクターコンちゃんです!

今回は、手術が必要な疾患があったとして、
新しい手術法を受けるか、
それとも従来からある手術法を受ける方がよいかについてお話しします。

まず結論から言えば、
新しい手術法が十分成熟していれば受けてもよい
新しい手術法がまだ成熟していなければ従来の手術法の方がよい
となります。

どういうことか、詳しく見ていきましょう!

新しい手術法の開発とは、企業努力の賜物である

さて、医療は日進月歩で新しい治療法が生まれていきますが、
それは特に薬の開発分野での話です。

ボク達外科系の医師も、
手術法が10年前に比べて大きく変わったということはありますが、
抗ガン薬や遺伝子治療薬などの分野に比べれば、その進歩は遅いです。

既存の手術法を、
それぞれの術者が少しアレンジして、
より安全に、より再現性のある成績を得ようという試みは日々行われていますが、
大部分は広まらずに消えていきます。

毎年、車メーカーから
「外観が少し変わりましたよ!」とか、
「新色追加しましたよ!」とか
「内装の仕様が変わりましたよ!」といったお知らせはありますが、
ハイブリッドカー登場とか、
そもそも車自体が空飛ぶようになったとか、
大きな変化はそうそうおきませんよね?

手術の世界もそれと似ていて、
マイナーチェンジはあるものの、
根本的に手術法が変わるというイノベーションは、
術者の努力というより、
新しい手術デバイスの開発という、
手術器械を開発する企業側の努力により起きます。

例えば、かの手塚治虫の名作漫画『ブラックジャック』では、
止血するために大量の鉗子で血管をつまんでいる絵が描かれていますが、
現在では電気メスやバイポーラという、
電気で血管を焼却して止血することが当たり前なため、
太い血管の止血以外ではほとんど鉗子でつまむことはなくなっています。

そういう小さいイノベーションもあれば、
近年当たり前になっている胸腔鏡や腹腔鏡、整形外科で言えば関節鏡といった、
従来のように大きく皮膚を切らずに、
数㎝の小さい傷数か所でできる手術は
それまでの常識を覆す大きな進歩でした。

ボクが専門とする脊椎外科の領域でも近年、
小さい傷でできる脊椎内視鏡が生まれています。

新しい手術法が成熟するとは

従来法に習熟していても、新しい方法ではみんな初心者

ひとたび新しい手術デバイスが世に出ると、
いきなり全ての術者が新しい手術をできるのでしょうか?

答えは、できません。

例えば、ボクが整形外科になった時点では、
脊椎内視鏡は日本では広まっていませんでした。

顕微鏡を用いた手術は一般化していましたので、
それについては先輩も経験が多く、
教えてもらいながら習熟することができました。

しかし、脊椎内視鏡は周囲に行える医師がいなかったため、
最初は日本での先駆者が開くセミナーの参加や、
セミナーの中での模型を用いた手術トレーニング、
または遠くの病院まで手術見学に行ったりしました。

そうやって理論武装してから、
いざ自分で初めて手術をする機会になってみると、
驚くほどうまく手が動かないのです。

これは従来法に慣れている医師ほど感じることが多いと思います。

初めての脊椎内視鏡手術は、
先輩のアシストで何とか完遂できましたが、
従来法よりとても時間がかかった記憶があります。

こういった、テレビモニターに映される手術野を見ながら手元を動かすというのは、
テレビゲームに似ています。

実際にサッカーをやるのと、
サッカーゲームをやるのでは
違う能力が必要ですよね?!

つまり、従来法に慣れている術者であっても、
新しいデバイスになると慣れが必要になるのです。

手術にはラーニングカーブ(学習曲線)が存在する

下の図は、ラーニングカーブ(学習曲線)と言われるものです。

ラーニングカーブの模式図

横軸が手術経験数、縦軸が手術の習熟度を表しており、
習熟度には手術時間や出血量、合併症発生率などが含まれます。

この図の意味は、最初のうちはなかなか目に見えた上達が表れずに、
数十件の手術を経験すると飛躍的にレベルアップするというものです。

どんな手術でも、ラーニングカーブが存在します。

だからこそ、新しい手術法に習熟するまでは、
慣れた人にアシストを受け、
取り返しのつかないトラブルを避けながら手術を行う必要があります。

問題は、まったく慣れた人が周りにいない、
または日本にすらいない場合です。

指導者がいない新しいオペの危険性

さて、手術にはラーニングカーブが存在する以上、
習熟するまで、手術時間、出血量、合併症発生率が高くなります。

そういった問題点をできるだけ低く抑えるために、
熟練の指導者がバックにつく必要があります。

しかし、日本に初めて導入されたり、
新たに開発された術式では、
当然周囲に頼れる人がいないわけです。

指導者がいないのですから、
手探り状態で、自分で試行錯誤を繰り返して上達する必要があります。

先で述べたように、上達するまで様々なトラブルが起き得ます。

以前、高名な脊椎外科医が講演で言われていました。

ラーニングカーブと言うが、上達するまでの患者さんはどうなるのか

これは、新しい手術法を導入しようとする際に、
外科医が肝に銘じなければならない言葉です。

それでも、なぜ新しい手術法を身につけようとするのか

では、なぜそんなに患者さんにとってもデメリットの多い新しい手術法を、
一人で身につけようとするのでしょう。

理由①:患者さんのため

当然、新しい手術と言うのは、
従来法ではどんなに工夫してもなくならなかった問題点を克服するためのものです。

その方法が普及すれば
多くの患者さんにメリットがあるわけですから、
身につけようとする動機の根本には医師の使命感というものがあります。

理由②:医師個人のため

上記のように、
新しい術式を身につければ患者さんにメリットがあるわけですが、
上達するまでは患者さんにとってデメリットの方が勝る可能性があるわけです。

新しい手術法に特有の、
従来法にはなかった新たな合併症が起きれば、その責任は医師にあります。

それでも敢えて果敢にトライするというのは、
モチベーションの源は医師個人のメリットにあるはずです。

  • 難しいことができるようになるという、職人気質を満足させるため。
  • 日本で一番初めの、または数少ない術者になることで、有名になるため。

医師も人間である以上、
上記のような側面もあることは否定できません。

手術法が成熟するとは、多くの術者が慣れるということ

新しい手術であっても、まず第1人者が習熟し、
その人に教わった数人がまた習熟し、
というように上手い術者が指数関数的に増えていけば、
たくさんの施設に名人が存在することになります。

そうして、多くの術者の間で、
稀にしか起きない合併症や、
安全に手術を行うための細かいノウハウといったものが意見交換、共有され、
全体としてのレベルが上がっていきます。

起きうるトラブルがおよそ世の中で出尽くした時、
日本の多くの施設で同じように安全確実に行えるようになった時が、
その手術法が成熟したといえる状態です。

つまり、日本全体での術式の成熟度は
どれくらい普及しているかが指標の一つと言えます。

結局、どちらの手術法を受けるか

広く普及している手術については、
一定の成績は確保されていますので、
どこで受けてもよいということになります。

新しい手術法というのは、
受けた患者さんがトラブルに遭う確率が高い傾向にありますので、
その手術法の成熟を待つ、すなわちある程度普及するのを待つ必要があります。

ただし、過渡期においては、まだ世の中に十分広まっていませんので、
病院間で成熟度に差があります。

また、限られた施設でしか行われていない方法と言うのは、
そもそも周囲の医師に良い術式と広く認められていない可能性もあります。

結局、自分が手術を受ける場合、
どうすればよいのでしょうか。

以下がボクのおススメの方法です。

  1. 病院ホームページなどで術式ごとの手術件数を調べる
    (件数が多い方が成熟度が高い)。
  2. 新しい手術法と従来法のどちらも多数扱っている病院を受診して、どちらがよいか相談する
    (通常は新術式でトラブルが起きた場合に、従来法に切り替えることができる)。
  3. 新しい手術法と従来法のどちらも扱っている病院がない場合は、
    新しい術式だけの病院⇒従来法だけの病院と、いずれも受診して相談する。

3について注意が必要なのは、
新しい術式だけの病院は、当然その方法が良いと言いますので、
従来法の病院で、新しい術式についてや、その病院の評判を聞くと言うものです。

以上、長くなりましたが、病院を選ぶ時の参考になれば幸いです!

最後まで読んでくださって、
ありがとうございました!!!

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