ドーモ!
オペとスマホは小さいほうがいい、がモットーの
ドクターコンちゃんです!
さて、首から腕の痛み、しびれを生じる疾患として、
頸椎椎間板ヘルニアや、頚椎症性神経根症という疾患が有名です。
(頸椎椎間板ヘルニアについては以下もご参照ください↓)
頚椎前方固定術(anterior cervical discectomy and fusion : ACDF)
これらの疾患に対する手術法の中で、
昔から世界的ゴールデン・スタンダードなものとして
頚椎前方固定術(anterior cervical discectomy and fusion : ACDF)というのがあります。
これは首の前方を数㎝切開し、
気管や食道をよけて椎間板や椎体に到達、
椎間板を摘出し、椎間板内にできた隙間に
スペーサーという人工物や、骨を設置するという術式です。
この方法は症状改善の切れ味が良く、とても良い術式です。
ただし、気管や食道のそばを操作することから、
術後に飲み込みにくさといった嚥下障害が発生することがあったり、
稀に手術後の呼吸困難が起きることがあったりします。
また、首の関節が一か所固定されることで、
将来的に、手術部位のお隣の椎間板が悪くなってくる隣接椎間障害など
特有の合併症も指摘されています。
頚椎後方椎間孔拡大術(posterior cervical foraminotomy : PCF)
というわけで、
それらの合併症を嫌うドクターたちが
頚椎後方椎間孔拡大術(posterior cervical foraminotomy : PCF)という方法を編み出しました。
これは、首の後ろから切開し、
神経の通り道の後ろ側の骨を削り、
圧迫されている神経の逃げ道を後ろに作ってやろうというものです。
この方法も従来はそれなりに大きい傷が必要でしたが、
近年、7,8㎜程度の傷でできる、経皮的内視鏡でも行うことができるようになってきました。
私は近年、体へのダメージをできるだけ小さくしたいとの思いから、
特に脊椎内視鏡に力を入れており
頚椎後方椎間孔拡大術についても、
この経皮的内視鏡で行うようにしております。
内視鏡で行うことで
傷も小さく、術後の痛みも少なく、
気管や食道のそばを触らなくても済むし
人工物で固定する必要もないし
いいことずくめじゃん!
・・・と簡単にはいかないのが医療の難しいトコロ。
すべての症例において、この方法で済むワケでもなく
症状がうまく取り切れなかったりした場合、
最終手段は前方固定術になるんです。
(頸椎椎間板ヘルニアの術式については以下もご参照ください↓)
前方固定術と後方椎間孔拡大術のどちらがいいのか?
結局、いずれの術式にも一長一短があり、
前方法か後方法か、どちらがいいのか、
なかなか結論がでないまま議論が続いています。
さてさて、最近こんな論文がアメリカのイエール大学より出されていました。
Single-level Anterior Cervical Discectomy and Fusion Results in Lower Five-year Revisions than Posterior Cervical Foraminotomy in a Large National Cohort
Rahul H. Jayaram et al. Spine 2023
(1椎間の頸椎前方椎間板摘出&固定術は、後方椎間孔拡大術に比べて、5年以内の再手術率が低い)
この研究の対象患者さんは、
1椎間の頸部神経根症に対して手術が行われた31953人。
内訳は、前方固定術 (ACDF)29958人、後方椎間孔拡大術 (PCF)1995人。
術後に起きた合併症について、両群間を比較しております。
主な結果は次の通り
結果
術後90日以内では・・・
- 創部感染率は後方椎間孔拡大術 の方が多い
- 創部離開は後方椎間孔拡大術 の方が多い
- 肺炎発症は前方固定術の方が多い
- 嚥下障害は前方固定術の方が多い
- 再入院は前方固定術の方が多い
術後5年以内で・・・
- 再手術は後方椎間孔拡大術の方が多い(後方19.0% vs 前方14.8%)
う~ん・・・
やっぱり一長一短ですね・・・
ただ、
創部感染や創部離開については、
昔からある、数㎝の大きな傷で行う後方椎間孔拡大術でのことじゃないかとは思います。
経験上、どんな手術でも
大きい傷の手術に比べて、
小さい傷で行う場合、
傷の治りもよく、感染しにくいです。
経皮的内視鏡の7,8㎜の傷であれば、
ほとんど感染や創部離開は起きないのではないか、と思います。
ただし、再手術率が後方椎間孔拡大術の方が多いということについては、
その通りかもしれないという危惧はあります。
なにせ、固定術してしまえば
それ以上同じ部位にできるオペはありませんからね。
(その代わり、お隣の椎間が悪くなる、隣接椎間障害の可能性はありますが・・・)
それに対して、固定を行わない後方椎間孔拡大術の場合、
経年変化による悪化の余地を残しているので、
再手術になる可能性はあるかなと。
完全な決着には
まだ今後のデータ蓄積が必要ですが、
個人的には(自分が受けるとしたら)、
経皮的脊椎内視鏡下での後方椎間孔拡大術を選びます。
(今回の論文にもあるように、従来の大きい傷だと治りが悪くなる可能性高いので受けたくありません。)
なぜなら、前方手術特有の合併症を避けられるからです。
しかも、経皮的脊椎内視鏡であれば
後に残る傷も目立たず、
術後の痛みもかなり少なく済みます。
確かにデータ上は、5年以内での再手術確率がやや高くなりますが、
19%か14.8%の違いなので、ボク的には許容できます。
(前方固定術でも0%に近くはならないわけですから)
体に優しい経皮的内視鏡でまずやってみる価値はあるかな、と思います。
もちろん、その後再手術が必要になったとしても
仕方ないと諦めがつきます。
新しい小さい手術というのは
従来法にすべて取って代われるものではないですが、
それで従来法よりも楽に治療できる患者さんが少しでも増えるなら
社会的価値はあると考えます。
というわけで、さらに技術を研鑽して
痛みの少ないオペを極めていきたいと思います!
最後まで読んでくださって
ありがとうございました~!!!
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