「後医は名医」という悲しい現実の、それらしい理由

勝手にメス入れ医療問題

こんにちは!
名医にはなれずとも、
良医を目指しているドクターコンちゃんです!

さて、医師の世界には、

後医は名医(または良医)」

という格言があります。

最初にかかっていた医者では診断がつかなかった、
治療してもよくならなかった、という患者さんが、
2番目の医者ですぐ診断がついて、
適切な治療で良くなった、という良くある話です。

ウチにも

前のクリニックで良くならないから
黙って来た のよ~

という方は多くおられます。

またその逆もあり得るかと思います。

身につまされる思いですが、
なぜそういうことが起きるのか、考えてみました。

<前医側の理由>

  • 前医が診断を確定するために、典型的な症状が出るのを待って経過観察中であった。
  • 前医で診断はまだつかないが、診断的治療中であった。
  • 前医が診断バイアスに陥っていた。

<後医側の理由>

  • 前医で経過観察中に、典型的な症状が出ていて、容易に診断できた。
  • 前医での診断的治療が効果なかったことで、別の疾患の可能性を考えることができた。
  • 前医の診断を否定してかかったので、診断バイアスに陥らなかった。

もう少し細かく見てみます。

前医側の理由

前医が診断を確定するために、典型的な症状が出るのを待って経過観察中であった

発症当初はあまりはっきりした症状が出ていなくて、
診断が確定できないことがあります。

その後、時間が経って、
ある疾患に特徴的な症状、所見が出てくることで、
考えられる疾患名が絞られてくる、という事はあります。

前のお医者さんが、
そのために経過観察中であったのを、
患者さんが我慢できずに病院を変えてしまうというパターンです。

前医で診断はまだつかないが、診断的治療中であった

前述のようにはっきりした診断がまだつかない段階で、
想定される疾患を考え、治療を開始してみるという事があります。

治療が効けば、その疾患であったと確定することができるわけです。

それを診断的治療と言います。

治療効果が無ければ、
また違う疾患を想定するということになります。

その間に時間も経過するので、
前述のように典型的な症状が出てくることもあります。

やはり患者さんが待ちきれずに
病院を変えてしまうことはあります。

前医が診断バイアスに陥っていた

さて、医者も人間ですから、
診断において、心理的な罠に陥ることがあります。

これをバイアス(bias)、または認知的反応傾向(cognitive disposition to respond:
CDR)
と言います。

呼ぶのが簡単なのでバイアスと呼んでおきます。

100以上もの(!)バイアスが指摘されていますが、
特にありがちなものを、ボクの備忘録的に挙げてみます。

  1. アンカリング(Anchoring):診断早期の、最初の考えに固執してしまう。
  2. 早期閉鎖(Premature closure):早々に考えることをストップしてしまう。
  3. 確証バイアス(Confirmation bias):自分の仮説に都合の悪い情報を無視し、仮説に都合の良い情報だけを探してしまう。
  4. 可用性バイアス(availability bias):最近見たことのある疾患と似ているため、同じ疾患を考える。
  5. ハッスルバイアス(hassle bias):自分が最も楽に処理できる仮説のみを考える。hassleとは面倒という意味。
  6. 自信過剰バイアス(overconfidence bias):自分の診断能力に自信をもって、情報収集をやめてしまう。または前医や指導医の意見に盲目的に従う。

これ以上挙げ続けると吐きそうになるので、
これぐらいにしておきます・・・。

どんな仕事でも、
またプライベートでの情報処理においても、
こういった心理的な罠は、
「ああ、あるある」と当てはまる気がします。

特に仕事が超多忙な時ほど、
この罠にかかりやすい気がします。

やはり外来は時間的余裕が必要ですね・・・。

後医側の理由

結局、上記のような、
前のお医者さんの理由の裏返しになります。

前医で経過観察中に、典型的な症状が出ていて、容易に診断できた

前述のように、発症から時間が経っていて、
診断がしやすい症状が出そろってきていたというパターン。

前医での診断的治療が効果なかったことで、別の疾患の可能性を考えることができた

前の医師が、
良くある疾患についての治療を開始しており、
それが無効であったために、
最初から違う疾患を想定して診断をやり直せたというパターン。

前医の診断を否定してかかったので、診断バイアスに陥らなかった

紹介状なしに受診された場合は、
最初から前医の診断も治療も否定して、
俯瞰的な立場から診断をスタートします。

そのため、前医が陥っていたバイアスを回避しやすいです。

まとめ

結局、
本来なら後医が自分で経ていたはずの、
前医での診断・治療のプロセスをすっ飛ばしており、
後医の方が有利です。

後出しジャンケンですね。

ただ、患者さんにしてみれば、
前の医者では治らなかったが、
後の医者が治してくれた、
という理解になってしまうため、
そうなると前医としては悲しいです・・・。

ホントは、前医と後医の二人で協力して診断、
治療を行ったようなものなのですが・・・。

できれば、
患者さんとしては医者に言いにくいかもしれませんが、
違う病院をかかってみたいと仰っていただいて、
紹介状を持参して頂くのがありがたいです。

自分も、前医にも後医にもなり得るため、
前医の批判はしません。

また、セカンドオピニオンで他の病院を受診したいと言われる方には、
喜んで紹介状や医療情報の提供をさせていただきます。

ボクもできるだけバイアスに陥らないように、
また診断のための経過観察や診断的治療について
ご理解いただけるように説明は丁寧に行っていきたいと思います!

というわけで、一般の人にはどーでもいいようなことかもですが、
最後まで読んでくださって、
(ていねいに)ありがとうございました!!!

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