「オペはスポーツと同じ。ウデが鈍ったと思ったら後輩に譲れ。」

医者雑談

こんにちは!
ついに軽い老眼が始まったのではないかとドキドキしているドクターコンちゃんです!

昔々、ボクが研修医2年目の時に、
結構上の先生から言われたことをふと思い出しました。

「オペはスポーツと同じ。ウデが鈍ったと思ったら後輩に譲れ。」

当時、ボクはそこそこ有名な温泉街にある総合病院で整形外科研修をしていました。

(有名なのは病院ではなくて温泉街ですが(^-^;)

独り身で、毎日の晩御飯の確保に困っていたので、
毎夜のように温泉街の飲み屋に、独り繰り出しておりました。

そんなボクの生活を知ってか知らずか、
診療科の垣根を越えて、先輩方にもよく飲みに誘ってもらったものです。

ある日、仲良くして頂いていた脳外科部長と居酒屋で盃を交わしていた時、
冒頭の言葉を言われました。

「オペはスポーツと同じ。ウデが鈍ったと思ったら後輩に譲れ。」

オペとスポーツの共通点

当時は、フーン、そんなもんかと、ピンとこなかった記憶があります。

その後、経験を積んでいくと、その言葉の意味が少しずつ分かってきました。

ただ、若い時に分かったのは、「オペはスポーツと同じ。」という下りだけです。

確かに本で勉強だけしても、オペはできるようになりません。

指導医の下、やってみて体で覚える必要があります。

偉そうに言ったって、結局、職人の手仕事ですから。

スポーツ同様、やった数だけ上手くなります。

病院の症例数によっては、年齢が若くても、たくさん経験している医師は、
他の病院の年上の医師より上手くなることもあります。

むしろ、若いうちの方が、上達が早いです。

これもスポーツっぽいですね。

数年間、オペから離れて大学院で基礎研究をしていた先輩と、
その人と同学年の、オペばっかりやっていた先輩とを比べたら、
明らかにオペを含めた臨床能力は後者の方が上であった覚えがあります。

その二人の先輩を見比べたとき、オペが上手くなりたい一心だったボクは、
ああ、やっぱりとにかく経験を積み続けることが必要なんだなあと感じたものです。

ただ、闇雲にオペしたらいいかというと、
これもスポーツと同じで、
イメージトレーニングも大事です。

シャドーボクシングならぬ、シャドーオペレーションですね。

頭の中で、細かく術野が再現できるようになれば、
頭で何度も練習できますからね。
そういう人は上達のスピードが違います。

スポーツと異なる点

オペは本物の患者さんの体で行うワケで、
毎回本番の試合、しかも絶対失敗できない試合です。

やり直しはききません。

そこはスポーツと少し違って、本番を練習にすることはできません。

スポーツみたいに、

「今回は上手くいかなかったが、また今度頑張ろう!ドンマイドンマイ!」

では済みません|д゚)

だから、先輩のオペを見て勉強する、

他の病院の名人のオペを見学する、

シャドーオペレーションをする、

キャダバートレーニング(ご遺体を用いたトレーニング)、

教科書、論文、セミナーなどで、避けられる合併症をできるだけ勉強する、

などの頭を使ったトレーニングも必要です。

ただし、知識武装をどれだけしても、
予期せぬ事態に対処できるかどうかは、
踏んだ場数がモノを言います。

そういう観点で言うと、ゴルフに似てますね。

ただし、時間をかけすぎるわけにはいかないので、
経験を積んでスピードもつけなければいけません。

つまりスピードが必要なゴルフでしょうか。

モタモタしてると、後ろの組からバンバン球を打ち込まれるみたいな。

あまりやりたくありませんね(笑)

いつメスを置くべきか

オペは結構トシになるまでできちゃう

さて、体で覚える点において、スポーツと同じなのは分かりました。

最近、体力の減退や、
冒頭のように、近距離での小さい文字がやや読みにくくなる、
昨日のアルコールがなかなか体から抜けないなど(笑)、
トシを感じざるを得ないこともあります。

人間は40歳を過ぎると、
細胞レベルで老化が始まるらしいですし(;^ω^)

すると、あの脳外科部長の言葉が蘇ります。

「ウデが鈍ったと思ったら後輩に譲れ。」

プロスポーツ選手では、
数字として、明らかに成績が落ちたり、
昔と同じパフォーマンスが出せなくなるなどの自覚症状から、
引退することを決意するのではないでしょうか。

オペの場合、もちろん長時間になると体力が必要になりますし、
目が悪くなると支障が出ます。

ただし、慣れた手作業で、そんなに長時間かからないモノなら、
結構長く続けられる人もいます。

人間国宝の職人みたいな、
おじいちゃん名人先生(怒られるわ)もおられます。

それでも体を使った作業なので、
スポーツ同様いつかは衰えていきます。

また、体を悪くして、体力的にオペなどできなくなり、
外来だけのクリニックを開業される先生もいます。

後輩を育てるために譲る

ボクに諭した脳外科部長は、その当時も若手医師に、
自分の外来患者さんのオペの執刀を任せていました。

そのおかげで、その若手医師は、

「同年代の他の医師より、自分は経験させてもらっている」

と言っていました。

そういえば、かつてのボクの上司も、
同じようにボクに執刀を任せることがありました。

その上司は、

「今さら私が練習したってしょうがない」

と言っていました。

自分のウデが落ちたという自覚が無くても、
これ以上、同じオペをたくさんしてもウデが向上しないと思ったら、
後進の成長のために譲る方が良い、ということかな、とも思います。

名人がいつまでもオペをすることの弊害

世の中には、神の手ともてはやされるようなオペレーターもいます。

実際にはどんな医師でも神様ではないので、
昔から上手かったワケではなく、
たくさんの小さいミスを経験して上達していったのだと思います。

神様ではないので、しっかり失敗もしますし、年とともにウデも衰えていきます。

もちろん、患者さんや、周囲の医師から頼りにされているうちは、
そしてウデが鈍ったという自覚がないうちは、
オペを続けるべきと思います。

しかし、昔からよく聞くのですが、
特に大学病院のような、症例数が限りある病院では、
医師も多く、なかなか若手に出番が回ってきません。

出番が回ってきたころには、結構トシになっていて、
最も技術が向上する適齢期を超えてしまっています。

そしてさらに若手にはなかなか出番が回らないという、悪循環に陥ることがあります。

それに業を煮やした医師が、指導医不在のまま難しいオペをやって、
医療事故が起きたという報道もかつてありました。

たくさんの患者さんが集まってくるオペレーターほど、
自分がメスを持てないトシになったときに、
すぐ自分の代わりができるような若手を育てておくべきと考えます。

すなわち、後輩に譲っていく期間を意識的に設ける必要もあるのかなと。

とあるオペ名人
とあるオペ名人

自分がメスを置いたら、世の中にとって損失になるから、開業しない

すごいウデのある名人から、こんな言葉を聞いたことがあります。

その域まで自分も達したいものだと思いました。

ボクとしては、さらに、

ドクターコンちゃん
ドクターコンちゃん

自分の技術を誰かに継承させないと、世の中の損失になる

と言えるようになりたいモノです。

ウデを維持できていると思ったら、退化している証拠

人間も組織も、
さらに前進しようとして努力しているときでも、
実際には停滞している、
ウデが維持できているだけという事がある、と聞いたことがあります。

逆に、現状維持できていると思ったら、
すでに退化が始まっていると聞きます。

ということは、オペにおいても、
常に新しい技術の習得や、
これまでに習得した技術のさらなる改善、向上を実感できていなければ、
すでにウデは落ちていると思った方が良い、ということですね。

ボクとしては、
去年より自分が進化できているという実感が得られるうちは、
まだやっていていいのかな、と思っています。

というワケで、

常に進化し続ける努力をすること、

そういう立場になったら積極的に後輩を育てること、

もう進化できないな、と思ったらメスを潔く置くこと、

これらを胸に励みたいと思います!

何かセンチメンタルな気分になってきましたが、

こんな独り言を最後まで読んでくださって、
ありがとうございましたー!

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