こんにちは!
自身もいつ腰椎椎間板ヘルニアになるかと
ハラハラしているドクターコンちゃんです!
今日は、偽の腰椎椎間板ヘルニアの存在についてお話しします!
ニセモノとはどういうこと?!と思われるでしょう。
腰痛で他の病院、クリニックを受診した際に、
腰椎椎間板ヘルニアと言われた後、
当院へ受診される方は多いです。
その中に、
実は腰椎椎間板ヘルニアではないという方が、
少なくないのです!
腰椎椎間板ヘルニアでないなら、何なのか?!
結論から言うと、大体、以下の三つです。
- 椎間板変性(椎間板の老化)
- 椎間板周囲の骨棘(こつきょく:骨のトゲ)
- 腰部脊柱管狭窄症
もう少し詳しく説明していきます!
腰椎椎間板ヘルニアの説明
腰椎椎間板ヘルニアについて簡単に説明します。
まずは腰椎(腰のせぼね)の模型です。
この図は腰椎を横から見ています。
せぼねの真ん中が神経の通り道(脊柱管)になっていて、
前の方に椎体(骨)、椎間板があります。
この図はせぼねを横から見た簡略図です。
①は正常な椎間板で、神経を押していません。
②は椎間板が神経の通り道に飛び出して神経を押しています。
こうして、脚の痛みやしびれを生じるのが椎間板ヘルニアです。
偽ヘルニアと言うなら実際は何なのか
さて、では実際にヘルニアでないなら何なのでしょうか。
実際は、以下の3つであることが多いです。
椎間板変性(椎間板の老化)
椎間板は、誰でも年齢とともに変性(老化)します。
すると、椎間板の高さがつぶれてきて、
椎間板表面がたわんで、
あたかも椎間板ヘルニアみたいに神経の通り道に少し膨らみます。
MRIでこれがヘルニアっぽく見えることもあるんですね。
ほとんどの場合は、腰痛のみで、脚の症状はありません。
椎間板周囲の骨棘(こつきょく:骨のトゲ)
椎間板変性が起こり始めて長年経つと、
椎間板周囲の骨に、トゲが出てきます。
これを骨棘(こつきょく)といいます。
骨のトゲとともに、
椎間板表面のラインも後ろに出っ張るんですね。
これがヘルニアに見えてしまうこともあります。
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症とは、
主に神経の通り道の後ろ側の壁が分厚くなって、
神経を締め付ける病気です。
椎間板ヘルニアのように、
脚の痛みやしびれが出てきます。
これに、上述の椎間板変性や骨棘が加わると、
症状も似ているため、間違えやすくなります。
なぜヘルニアだと誤って指摘されるのか
医師があまり腰痛の原因を理解できていないから
腰痛の原因疾患はたくさんあります。
他の医師を批判するわけではありませんが、
脊椎外科としてたくさんの患者さんを診ていないと、
腰痛の原因疾患として、
ヘルニアなのか、それとも椎間板変性などの老化に伴うものなのかを
正確に言い当てられない可能性があります。
ただし、端的に年のせいと言われると、
「えー!それじゃどうしようもないじゃん」と落胆され、
受け入れがたく感じる方もおられるかと思います。
(実際に年齢変化を元には戻せませんが、
そういうものだとして、
腰痛が強くならないようにケアしていく習慣が必要なのですが。)
椎間板ヘルニアは一般の人にも有名で聞きなじみがあるため、
年のせいと言われるよりも、
患者さんにもスッと受け入れられやすいですよね。
そのため安易に椎間板ヘルニアと言われることもあります。
医師が腰椎MRIを見慣れていないから
これも批判するわけではありませんが、
多くの患者さんのMRIを見慣れていないと、
ヘルニアか、偽ヘルニアかを見分けることは難しいです。
実際、脊椎外科医は、MRIだけで診断せず、
症状の発生状況、経過、身体所見などから総合的に判断しています。
また、下に後述しますが、
ヘルニアの手術をたくさんしていないと
診断能力が上がらないということもあります。
脊椎外科医としてヘルニアの手術をあまりしたことがないから
脊椎外科医といえども、
診察とMRIで完ぺきに診断できるわけでもありません。
例えば、腰部脊柱管狭窄症と腰椎椎間板ヘルニアの合併例もあります。
その場合、どちらの疾患に対しても手術を一緒に行います。
MRIで椎間板ヘルニア合併の疑いも持って手術に臨み、
実際に手術所見では椎間板ヘルニアではなく、
椎間板変性による膨らみだけであった、ということはよくあります。
診察でヘルニアを疑う ⇒ 画像検査でヘルニアを疑う ⇒ 手術で初めて診断が正しかったと確認
こういう手術による診断のフィードバックがないと
診断能力は上がらないものです。
不確かな状態で手術してるのかよ~!
とお叱りを受けそうですが、
術前診断に100%はありません。
それでもできるだけ100%に近づけるようにしていますし、
確信が持てない時は安易に手術せず、
神経根ブロックなどで診断確率を上げたりします。
最近では、ヘルニアのタイプによっては
コンドリアーゼという注射で治すこともできます。
そのため、ハデなヘルニアではなく、
こちらが手術に躊躇を覚えるような場合は、
敢えて手術に行かず、
コンドリアーゼ注射を行ってみるということもあります。
医師が不要な手術をしようとしてヘルニアと言っている可能性
怖い話ですが、
大部分の脊椎外科医は手術適応と考えないような椎間板変性を、
もしかしたらお金儲けのために
ヘルニアだと言って手術に持っていこうとする医者もいるかもしれません。
これはまともな脊椎外科医ならみんな知っていることですが、
脚の痛みやしびれがなく、腰痛だけの症状だと、
ヘルニアのオペで良くなる可能性は低くなります。
だから、善良な医師は、
腰痛だけの患者さんにメスを入れることをためらいます。
ヘルニアであっても稀に脚の症状があまりないこともありますが、
その場合は、手術で良くなる可能性は五分五分と考えて、
患者さんにも納得してもらった上で手術に賭ける、という考え方になります。
ヘルニアか偽ヘルニアかで、そもそも治療の考え方が変わる
ヘルニアなら、手術やコンドリアーゼ注射で治ります。
前述しましたが、
偽ヘルニア(椎間板変性)をヘルニアとして手術しても
よくならない可能性が高いです。
椎間板変性による腰痛は、慢性化する方も多く、
今も昔も、残念ながらみんながスッキリ治るような治療法はありません。
だからこそ、腰痛を治したい一心の患者さんが、
一部のエキセントリックな医師に賭けて、手術されているのでしょう。
なんだかモヤモヤするかもしれませんが、
現在、椎間板変性などによる慢性の腰痛に対して、
データ的に最も効果があるのは、
ストレッチや体幹筋トレーニングなどの運動療法だけです。
(マトモな)脊椎外科医を信じてください
患者さんの中には、実際にはヘルニアではなくても、
他の病院で以前ヘルニアだと断言されたため、
それにこだわって手術やコンドリアーゼ注射などの治療を希望される方がいます。
ただし、先に述べたように、マトモな脊椎外科医は、
腰痛だけの症状がオペで治りにくいことをよく知っています。
だから、診断に確信が持てない患者さんの体にメスを入れるようなことはしません。
脊椎外科医であっても、
偽ヘルニアと真ヘルニアを見分けにくいこともあるので、
前のお医者さんが誤診したのだと言うつもりもありません。
医師は皆知っていることですが、
診断は確率論なので、100%ということはなく、
最も確からしいものを診断としています。
だから、そもそも診断にはグレーゾーンがあります。
複数の医師の意見が分かれる可能性もあるので、
大部分の専門家が賛同する意見が、
確率的により確からしいものではないかと考えます。
しかし、そんなにいくつもの病院を受診するのは現実的ではないですし、あまりお勧めしません。
自分の言ってほしい診断名を言ってくれる医師を探して回った挙句、
前述の悪いお医者さんに引っかかる可能性もあります。
結局は、目の前の医師を信じられるかどうか、
ということになってしまいますが。
信じるのに値する医師の見つけ方については、
以前の記事『名医の見つけ方~内部の人にしか良い医者は分からない』も参考にしてみてください。
ボクも目の前の患者さんに信じられるような医師を目指して研鑽します!
というわけで、長々とモヤッとする話に付き合ってくださって、
ありがとうございました!!!
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